僕らの時代
3rdアルバム
2017年9月1日リリース
【収録曲】
- 僕らの時代
- もし僕がもっといい歌うたえたなら
- 嵐がくるまえに
- 死んじゃった。
- 結婚式の真っ最中
- 神様は僕の泥棒
- あぁよかったな
All songs written by スギタヒロキ
All songs arranged by 山崎裕也
WISEMAN’S BELL Recordからリリースされた3rdアルバム。ライブでは専らギター1本の弾き語りで演奏されるスギタヒロキの楽曲だが、本作では全編POPなアレンジが施されている。ライブでの人気曲「僕らの時代」「死んじゃった。」「あぁよかったな」の新録バージョンなど、バラエティ豊かな楽曲群で構成されている。
「僕らの時代」試聴
スギタヒロキ「僕らの時代」を語る
3rdアルバム『僕らの時代』は、初めてレーベル(WISEMAN’S BELL Record)から出したアルバムですね。2017年9月1日リリース。
レーベルオーナーの代々木原シゲルさんは静岡出身の方で、今は埼玉の小川町というとこでお店をやってます。前作(ろぼうのほし)の後、すぐにでもアルバムを作りたいと思っていたんですが、シゲルさんから「一緒に作ろうよ」と声を掛けてもらったことで、一気に話が具体化しました。
シゲルさんと初めて会ったのは、シゲルさんがオーガナイズするGO AROUND JAPANというフェスの前身イベント(JAPAN FOLK SPILIT:2013年12月14日開催)の時ですね。僕は裏方のスタッフでしたが、出演者のノグチサトシさんに紹介してもらい、「自分も音楽やってます」と挨拶をして。
それから数年後、僕が『ろぼうのほし』を出した頃、GO AROUND JAPANのオーディションを受けたら、「成長が凄まじいな!」と褒めてもらって。それをきっかけに「僕は誰に対してもこういうことを言うわけじゃないけど、一緒にアルバムを作らない?」と声を掛けてくださったんです。嬉しかったですねえ。
アルバムのコンセプトはファンやリスナーの「間口を広げる」というものにしました。そこで全曲聞きやすくアレンジしようということで、WISEMAN’S BELL Recordに参加する山崎裕也さんにアレンジをお願いしました。
僕が録音した音源を渡すと、山崎さんがそれをアレンジしてオケを作ってくれるんですけど、山崎さんめちゃくちゃ仕事が速くて。スライドギターとかも全部演奏してあっという間にオケができたんですよね。だから僕、本作では全く演奏してないです。
レコーディングは東京にある山崎さんの自宅スタジオでやりました。僕は静岡在住なので、東京でのライブにあわせて山崎さんの家に行く予定を組んで。僕がマイクの前に立って歌い、山崎さんはその横でジャスミンティーを飲みつつ「今のいいね!」なんて言いながら録音すると(笑)。
「すごく上手く歌えた!」と思ったらちょうど5時のチャイムが鳴ってしまい「ごめ~ん、やり直し!」みたいなこともありましたね。でも、前作に比べてテイク数は相当少なくなってます。そうやってできた音源を、プロデューサーのシゲルさんが随時チェックしながら進んでいきました。制作期間は実質3ヶ月ぐらいかな。かなり早くできた方だと思います。
1:僕らの時代
いつもお世話になってるUHU(ウーフー:スギタヒロキが拠点にしている静岡のライブハウス)のボスが、ある時ポツリと「みんな才能あるのに、どうして注目されないんだろうな、悔しいよな」的なことを言ったんですね。
確かに、僕のまわりにいる凄い才能あるミュージシャンでも、スーパーでバイトしてたり、音楽以外の仕事をして活動を続けていることがあるんです。ボスの何気ない一言で、あらためてそのことにハッとさせられて。そこからガーっと書き始めた曲です。
詞を書いてる時から、Aメロ、Bメロはなんとなくできてたんですけど、サビは悩みましたね。「僕らの時代をつくるのさ」この言葉を最大限に活かすメロディはどんなものだろう?と。自分としては歌詞、メロディともに選びぬいたものになってます。
シゲルさんはこの曲をすごく気に入ってくれまして、「これだ!これしかない!」という感じでタイトルトラックになりました。個人的にもいつかCMとかに使われないかなあ~と(笑)そんな野望もこっそり抱いている曲です。
2:もし僕がもっといい歌うたえたなら
ただの皮肉というか、負け惜しみというか、嫉妬というか……そんな曲ですね。ヒットチャートを賑わしている曲、みんな同じようなコード進行で、同じような歌詞なのに、そんなに売れちゃうんだあみたいな。そういう屈折した想いが抑え切れずあふれ出てしまいました。
この歌は「僕らの時代」と違ってチャチャっと作ったんで、あんまり練られてない歌ですね。言いたいことは言えてるけど、でも稚拙でうまく伝えられてない、みたいなとこがあります。コード進行もめちゃくちゃシンプルですし。というか僕、そもそも複雑な歌があんまりないんですよ、転調を駆使するとか(笑)。いつかやってみたいですけどね。
3:嵐がくるまえに
だいたい深夜1時から3時、4時くらいが僕の創作のゴールデンタイムなんです。ある日の深夜、いつものように曲作りをしてたら、家を揺らすぐらいのめちゃくちゃデカイ台風が来て。
その状況でふと、小学生の頃に国語の授業で読んだ「あらしのよるに」という物語を思い出したんです。嵐の夜、狼とヤギがお互いの素性がわからぬまま、真っ暗な小屋で一夜を過ごすと。その物語から……なんででしょうね、「こりゃラブソングだな」とひらめいて(笑)。我ながら関連がよくわかりませんが、とにかくあっという間にできた曲です。
特定の誰かを想定したわけじゃないですけど、いわゆる「好きな人」というのは思い浮かべました。曲も短いし、歌詞も少ないですけど、そんなに短さを感じさせない歌になっていると思います。
4:死んじゃった。
前作『ろぼうのほし』に入っている曲をセルフカバーしました。前作はギター1本でしたが、本作ではしっかりアレンジをして、シゲルさんのアドバイスを受けて歌詞も一部変わっています。
アルバムコンセプトが「間口を広げる」なんで、あまりにキツイ言葉、強い言葉、イメージを限定しすぎる言葉は表現を変えたんですよね。そういった理由で『ろぼうのほし』バージョンとは終盤の歌詞が変わってます。
でもねえ……僕はアルバム制作でもっとも嫌いな作業が歌詞を変える作業なんです。だからシゲルさんとは軽く言い合いになりました。「この歌詞、モヤモヤするよなあ」「いやー俺は全くしないっすけどねー」みたいな。
でも最終的には「じゃあ変えますよ変えりゃいいんでしょ!」的な感じで変えて(笑)。その代わり、ライブはオリジナル歌詞でOKということになってますんで、人前で歌う時はいつも『ろぼうのほし』バージョンですね。
5:結婚式の真っ最中
宮崎に住んでいる従兄弟が結婚することになり、「結婚式で歌ってくれない?」と頼まれてできた歌です。従兄弟は農家なんですよ。「ボロボロの穴の空いたスボン」「泥まみれのくたびれた上着」という描写は、この夫婦の実際の感じから書いてます。
最初は、中島みゆきさんの『糸』とか、いわゆる結婚式の定番曲を歌おうと考えていたんですが、「俺、曲がりなりにもシンガーソングライターだしなあ……」ということでオリジナル曲をやろうと。そんな経緯で初めて人のオーダーで作りました。
結婚式で演奏した時の反応?うーん……泣いてなかったですね(笑)。でも、おじさんやおばさん、親戚一同は喜んでましたね。「あのヒロキくんがねえ~!立派になって~!」みたいな。
ぶっちゃけ従兄弟のために作ったんで、この歌はこれでもう封印です。アルバムの収録曲を考えている時、曲が足りなかったんですよね。僕としては次作に入る『売れない歌をうたえるのは』を推してたんですが、「コンセプトに合わない」とシゲルさんに却下されて。
「どうしよう……アレ出すかあ?」と恐る恐るシゲルさんにこの歌を聴かせたら、「よし、入れよう!」と(笑)。「マジかー!」と頭抱えてしまったんですけど、「間口が広がるならそれでいい、どうとでもしてくれい!」と。もう、まな板の上の鯉ですよ。そんな決意の1曲です(笑)。
6:神様は僕の泥棒
「バチが当たる」ってなんだ?って考えたりするんです。たとえば、盗んだお金でパチンコやっても儲かることはあるはずで、逆に普段から善い行いをしているのに不慮の事故で死んでしまう人もいるわけで。
世の中、必ずしも「バチが当たる」ようにはなっていない、だから、大人の言う「神様」という存在は嘘つきだ、嘘つきはつまり泥棒の始まりだ、と。そんな幼い着想からできた歌です。『神様は僕の泥棒』というタイトルがまず出来上がり、そこからイメージを広げていきました。
この曲に限らずアルバム全体的な傾向ですけど、ピアノ、オルガン、パーカッションと盛りだくさんのアレンジですよね。僕としてはベース、ドラム、アコギみたいなシンプルなアレンジを想定していたので、オケを聞いた時は意外に感じましたね。
7:あぁよかったな
これも『ろぼうのほし』に収録されている歌のセルフカバーです。ゆったりしたアレンジに生まれ変わっていますけど、原曲にあるリズム感はちゃんと残っているのがいいと思います。
ずっと同じコード進行なので、山崎さんがラストに向けてドラマチックに盛り上がるアレンジにしてくれたんだと思います。歌詞は先程のように「ここ変えようか?」みたいな話もあったんですけど、「いや変えない!この曲は変えたくない!」と押し通しました。
僕としては『ろぼうのほし』の、疾走感あるシンプルなバージョンの方が愛着あって好きですけどね。みなさんはどうなんでしょうか?よろしければ2枚ともお買い求めいただきまして(笑)ぜひ聴き比べてほしいですね。
「僕らの時代」まとめ
アルバムジャケットは、メジャーの仕事もたくさんしている、宮下太輔さんというフォトグラファーの方に撮ってもらいました。
この写真、実は前日シゲルさんにさんざん呑み屋を連れ回されて、絶賛二日酔い状態で顔がパンパンの時に撮ったんですよ。だから、普段の僕ではないというのは強くお伝えしておきたい(笑)。
上に重なっている絵はシゲルさんと僕で描いた絵です。本当はもっと具体的な絵をジャケットに載せたかったんですけど、なかなか上手くいかなくて。「描けねえな、どうしよっかあ」って時に、シゲルさんが絵の具の広がった透明のパレットをふと見て、「あれ?なんかこの模様、良くない?」ということになり(笑)。確かに言われてみれば、何か意味のあるモチーフに見えてきたんですよね。
これ、動物のようにも見えるね、というところから、僕の目をコラージュして生き物のようにしたり。え?目の存在に今やっと気が付いた?あはは、まあそういう反応もあるでしょうね。
一応このモチーフには、「スギタヒロキの音楽から、あなたはどんなイメージを思い浮かべますか?」というメッセージも込めてるんですよ?ええ、完全に後付けですけど(笑)。というわけで、「僕らの時代」全曲解説でした。よろしければ聴いてみてくださいな。